市販されている緑茶は、お茶の葉からいわゆる「お茶」になるまで、機械で生産されているものがほとんど。現在でも機械を使わず、昔ながらの手作業でつくられるお茶があることをご存知でしょうか。それが今からご紹介する「手もみ茶」です。
文字通り、蒸した茶葉を手でもみながら乾燥させていく技法を使い、お茶を作りあげます。一般に知られるお茶とは見た目が大きく異なり、艶々とした茶葉が針のように細長い形状をしています。通常の急須では、茶葉が折れてしまいそうな長さ。さらに茶葉が完成するまでに、数時間連続で基本的にひとりで継続して作業をするものであり、1回の工程で作られる茶葉は両手にすくえるだけと、とても希少価値の高いお茶なのです。そして、味も、お茶を超えた上質なだしのような特別な旨味を秘めています。
今では貴重な手もみの技法は、現在では各地域に根ざした保存会や研究会などが発足して、無形文化の保存、継承のために活動しています。なかでも、年に1度開催される全国手もみ茶品評会で15年連続、20回も産地賞(全国の産地で1位)を受賞するなど、狭山茶の産地は手もみ茶の高い技術力を誇っています。その卓越した技を、全国手もみ茶振興会の会長も務める、入間市手揉狭山茶保存会の比留間嘉章さん、市川喜代治さん、間野隆司さんに実際に見せていただきました。こちらのお三方は、品評会で日本一となると個人に贈られる「茶聖」の称号をもつ、知る人ぞ知るレジェンドたちです。
最初は十分に温められた助炭上に、蒸した葉をのせ、温めながら持ち上げては、振り落とすことで空気に触れさせて乾かしていく工程から始まります。体を移動させながら葉をパラパラ、かき集めてはパラパラと落とすを繰り返し、茶葉の表面にある水分を調整していく。これを4、50分続けます。(撮影時は特別に3名で作業していますが、通常は一人で行います)
次に、茶葉を集めた状態にして、左右に転がすことで茶葉の内部の水分を揉み出しながら水分を出していきます。前半は軽い力(=軽回転もみ)で、後半は強い力(=重回転もみ)を加えながら、もんでいきます。まとめた茶葉の表面が常に入れ替わって、まんべんなく茶葉に熱が加わるようにしています。これを約60分。体全体で力を加えていくので大変な労力です。
その後、重回転でできたかたまりをほぐすように、手のひらを合わせるようにして持ち上げ、前後に動かしながらほぐしていきます。ほぐれたら、いったんざるなどに移します。
ここまでは水分の多い茶葉を助炭の上で転がしたり、押し付けるため、助炭に茶渋がつくため、それを掃除するというプロセスが入ります。その後の仕上げもみと言われる次の段階に移る際に、茶の品質や、色光沢に影響があるので作業する場を、きれいにする必要があるのです。助炭の表面を水で拭き取ってきれいにし、次にこんにゃくから作ったのりを刷毛で薄く塗り、仕上げます。
ここから仕上げもみが始まります。両手で軽く茶葉を挟みこむように持ち、胸の前で手を前後に動かして茶葉を回転させながら振り落としていきます。この回転が加わることで、茶葉が少しずつよられて乾燥しながら細く長い形状へと近づいていきます。
徐々に細長く針状になってきた茶葉の向きを揃えながら、助炭上を左右に移動させながら、斜め左右交互に振り動かしていきます。手のひらで茶葉が転がるようにもみ込み、水分をもみ出しながら徐々に茶葉の形を整えていきます。
最終工程は、茶の形を整え、光沢を出していきます。3、40分かけ、丁寧に葉の向きを揃えた茶葉を両手で握りしめながら強くもみ、数回もんだところで助炭上におき2つか3つの山に分け、これをまた一つにまとめ強くもむことを繰り返します。次第に、茶葉に艶が出てもみ辛くなったら、乾燥のタイミング。助炭に広げていきます。
助炭上に薄く広げて、茶葉を2時間ほど乾燥させます。均一に乾燥させるため、時折位置を反転させ、じっくり時間をかけていくと甘い香りが漂い始めます。ここまでが荒茶作り(畑で収穫されたお茶の生葉から蒸されて、手もみ、乾燥までの工程)です。さらにこの荒茶を精製し、火入れをしてからようやく店頭に並ぶ“仕上げ茶”となるのです。
手もみ茶は、その日の気温や、湿度、茶葉の水分量などにより一定ではないものの、ゆうに4、5時間はかけて仕上げていきます。しかも熟練の茶師が1日かけて作られるのは300gほど。品評会に出品するお茶は450gなので、出品するだけでも2日がかりなのだそう。実際、茶葉の乾燥具合を常に判断しながらの作業は、休みなく立ちっぱなしで力を込めて作業するため、体に負担がかかります。そんな手間暇かけて作り出す極上のお茶が手もみ茶なのです。
「手もみ茶の価値をもっと高めるために約20年かけて、手もみ茶の存在を国内外に広める活動や、技術の継承、品評会を開催するなど様々な取り組みをした」とお話ししてくれた比留間さん。製茶方法のなかの1つの方法というだけにとどまらず、伝統技法として文化的な価値を高めることにご尽力されています。そのことは、若手の育成にもつながり、入間市手揉狭山茶保存会は順調に優秀なメンバーが育っているのも自慢の一つ。
もはや芸術品の域に達している手もみ茶。高級品ではありますが、ぜひ一度は試していただきたい希少価値のあるお茶です。
手もみ茶のいれ方は普通の煎茶と異なり、低めのお湯でじっくり蒸らして少しずついただきます。まず、沸騰したお湯を湯冷ましを利用して、5〜60度にしておきます。針状に細長い茶葉は折らないよう、手もみ茶専用の口の広い急須(お皿などで代用するとよい)に3g入れ、約30mlの冷ましたお湯を注ぎます。約2分むらしたら、湯のみに急須のお茶を注ぎ分けます。普通のお茶と違ってお湯の量が少ないので、少量ずつ味わうのが手もみ茶の特徴です。2煎目以降はお湯の温度を徐々に高くしながら、8煎ほど味と香りの変化も楽しむことができます。
比留間さんはご自身でプロデュースした手もみ茶用の煎茶道具でいれてくださいました。
園主は全国に二人しかいない「茶匠」「十段」「茶聖」に認定された手もみ茶の第一人者で日本茶インストラクター1期生トップ合格。埼玉県で生まれた品種にこだわり個性的な香りを持った十種を栽培、茶の植物としての資質を活かし花香、果実香、熟果香、蜜香といった香りを引き出す萎凋香のパイオニアでもあり、特許を取得した紫外線照射芳香装置UVT-HIRUMAにより魅力的な茶を作る。フランスはじめヨーロッパに輸出していることもありEUの残留農薬基準をクリアしている。手もみ茶、普通煎茶、深蒸し煎茶などの各種品評会で7度の農林水産大臣賞を受賞。Japanese Tea selection Parisでは2年連続でグランプリを受賞。
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